2025年11月18日火曜日

Black Messiah / D'Angelo and the Vanguard (2014)

最近ミュージシャンの死には驚かないほど、続けて多くの偉大なミュージシャンが亡くなっていますが、D'Angelo の訃報には驚きました。
10月14日に膵臓癌で亡くなったとこと、51歳だったことが報じられていました。
死ぬには若いし、3枚しかアルバムを作っていないし、まだまだこれからですよね。
膵臓癌で死んだ伯母の葬儀で「膵臓は沈黙の臓器と言われます」と伯父が語っていたのを思い出しました。
もしかしたら D'Angelo も闘病生活は短く、発見されてからあっという間に亡くなったのかもしれません。

このアルバムも出てから10年経ってたのを迂闊にも死んでから気づきました。ついこの前出たような気がするのに。
Prince のように多作なら、もしかしたらもう十分かも、と思わせますが、至って寡作。
前2作とも、全然違う手触りのアルバムでしたが、このアルバムも全く違った感じです。
こういうのを1枚1枚作ってたら、そらなかなかできんわな、と思います。

今作は全部アナログ機材を使って録音したとのこと。
こういうこだわりが完成を遅らすんでしょう。
もっと良くなる、とアイデアを入れるたび録音し直して、前のを消して。
Prince といえば、今回のアルバムでは随分 Prince 寄りになったな、と感じました。
ファルセットとコーラスという D'Angelo 代名詞であるスタイル、タイトなサウンドとファンクネスが Prince 的なものと重なるんでしょうか。
評価的には、Sly & The Family Stone の "There's a Riot Goin' On" や Miles Davis の "On the Corner" に比されることが多いようですが、あそこまで削ったドラムマシンファンクやポリリズムでもありません。
ただ、少しズレたアフタービートが、強烈なグルーヴを生み出し、独特なファンクネスになっているのは確かです。

僕が意識して D'Angelo を聴いたのは前作 "Voodoo" からでした。友人に勧められたんだと思います。
1にも2もなく、すぐに好きになりました。
キャッチーなメロディがある訳でもないのに、ずっと聴いていたくなるようなサウンド。
Electric Lady Studios を拠点にしていた Soulquarians の中心にいたのが D'Angelo。
全く無名だったファーストアルバム "Brown Sugar" はいわゆるネオソウルの先駆けになったと思います。
今回のこのサウンドも、その後至る所に与えた影響を感じます。
そういう、常にムーヴメントの中心になるべき才能を持っているのはすごいことです。

人間としては非常に控え目。少しナイーヴなところが、ドラッグやアルコールに弱いところに通じるんでしょうか。
前作以降、人目を避けるようになり、レコード会社からも見放され、突然14年ぶりにでた今作でしたが、素晴らしい出来です。
"Black Messiah" というタイトルが、人種問題を想起させ、人種問題トラブルからアルバム発売を早めた、とのことですから、当然社会問題を全面的に扱っているのかと思いきや、純粋ラブソング数曲あり、意外と硬派一辺倒ではないようです。
少し遊びの入ったサウンドの曲もありますし、エンターテインメントとしても十分成り立つ構成になっているのも才能がなせる技ですね。

本来はキーボードプレーヤーですが、人から遠ざかっている間、ギターの練習に明け暮れていたそうで、このアルバムでもほとんどの曲でギターを弾いているらしいです。
生きていたら、次ももっとアッと言わせるサウンドを作り出していたでしょうから、この才能が消えてなくなってしまったのは本当に残念なことです。


  1. Ain't That Easy
    • Lyrics by D'Angelo, Q-Tip, Kendra Foster
    • Music by D'Angelo
  2. 1000 Deaths
    • Lyrics by D'Angelo, Kendra Foster
    • Music by D'Angelo
  3. The Charade
    • Lyrics by D'Angelo, Kendra Foster
    • Music by D'Angelo, Questlove
  4. Sugah Daddy
    • Lyrics by D'Angelo, Q-Tip, Kendra Foster
    • Music by D'Angelo, Pino Palladino, James Gadson
  5. Really Love
    • Lyrics by D'Angelo, Gina Figueroa, Kendra Foster
    • Music by D'Angelo
  6. Back to the Future (Part I)
    • Lyrics by D'Angelo
    • Music by D'Angelo
  7. Till It's Done (Tutu)
    • Lyrics by D'Angelo, Kendra Foster
    • Music by D'Angelo
  8. Prayer
    • Lyrics by D'Angelo
    • Music by D'Angelo
  9. Betray My Heart
    • Lyrics by D'Angelo
    • Music by D'Angelo
  10. The Door
    • Lyrics by D'Angelo, Kendra Foster
    • Music by D'Angelo
  11. Back to the Future (Part II)
    • Lyrics by D'Angelo
    • Music by D'Angelo
  12. Another Life
    • Lyrics by D'Angelo, Kendra Foster
    • Music by D'Angelo, Questlove


  • D'Angelo : vocals, guitar, piano, organ, keyboards, synthesizers, bass, electric sitar, drum programming, percussion
  • Spanky Alford : guitar
  • Jesse Johnson : guitar
  • Mark Hammond : guitar
  • Isaiah Sharkey : guitar
  • Pino Palladino : bass, electric sitar
  • Ahmir "Questlove" Thompson : drums, drum programming, percussion
  • Roy Hargrove : trumpet, cornet, flugelhorn
  • James Gadson : drums
  • Chris Dave : drums, drum programming
  • Kendra Foster : background vocals
  • Jermaine Holmes : background vocals
  • Ahrell Lumzy : background vocals
  • Gina Figueroa : spoken word



2025年11月9日日曜日

Don’t Laugh It Off / 羊文学 (2025)

ドラムスのフクダヒロアが休養ということで実質2人体勢となった羊文学の5枚目のアルバム。
基本的には今までの羊文学らしさを踏襲した内容となっています。
そういう意味では前作の続きかな。

塩塚モエカの繊細な高音と力強い低音のアンビバレントさ、ノイジーなギターとベース、アンニュイなメロディラインと若者の戸惑いや揺らぎを捉えた歌詞世界。
リアルです。

シングルで出ていた既発の曲 #12 "Burning"、#11 "未来地図2025"、#5 "声"、#6 "春の嵐" の出来は素晴らしいですが、アルバム用に制作した曲もどれも落せず、アルバム全体として一体感があるのは、彼女らの実力を物語っています。

シューゲイザー的という意味では、きのこ帝国の後継者であり、サウンドとしては僕の好きなジャンルではないんですが、何か惹きつけられるものがあります。
特に #12 "Burning" は名曲で、「どんな痛みさえ輝きに変えながら命を燃やすの」というラインだけでもこのアルバムの価値があると思います。


  1. そのとき
  2. いとおしい日々
  3. Feel
  4. Doll
  5. 春の嵐
  6. 愛について
  7. cure
  8. tears
  9. ランナー
  10. 未来地図2025
  11. Burning
  12. don’t laugh it off anymore


  • 塩塚モエカ:Vo, G
  • 河西ゆりか:B
  • フクダヒロア:D
  • ユナ(ex. CHAI):D


2025年11月1日土曜日

Just Dennis / Dennis Brown (1975)

42年の短い生涯で75枚ものアルバムを作ったと言われている多作の Dennis Brown ですが、このアルバムを聴く限り、適当な曲を集めてアルバムを作っている風には見えません。
エクスパンデット ヴァージョンを聴きましたが、オリジナル アルバムにはない、いろんな曲を集めている割に、駄作がないというか。

彼のキャリアの中でも、比較的初期に位置付けされ、いわゆるルーツ レゲエ時代の傑作と言われているようです。
この時代のジャマイカのレゲエは、結構ラスタファリズム傾向が強く、ハードな感じを受けるのですが、Dennis Brown はその影が薄いのがいいですね。
何曲かは Jah を歌ったものや、アフリカ回帰の曲があったりするのですが、そいうものより、ロック ステディのカバーとかラブ ソングがいいです。なんか安心します。
エッジが立ってない感じというのかな。

60年代の終わり頃から、多作の Dennis Brown はいろんなプロデューサーのために多くの録音をしたそうです。どういうシステムでそうなるのか分かりませんが。
で、今回は Winston 'Niney' Holnes プロデュースで彼のレーベル Observer からです。
Niney は、ハウス バンドのセッション ミュージシャン集団 The Soul Syndicate を使い録音しますが、このアルバムもバックは The Soul Syndicate です。

レゲエには「リディム」という独特のものがあって、他の人の曲のドラムとベースからなるリズム体を使って、自分の曲を載せるみたいな感じで曲を作ったりするそうです。パクりと紙一重のような気がしますが、そういう文化なんですね。


  1. Show Us The Way [Dennis Brown]
  2. Cassandra [Dennis Brown]
  3. Run Too Tuff [Dennis Brown]
  4. Westbound Train [Dennis Brown, Winston Holness]
  5. Africa [Harris Seaton]
  6. Love Jah [Dennis Brown]
  7. No More WIll I Roam [Dennis Brown]
  8. Some Like It Hot [Dennis Brown]
  9. Conqueror [Dennis Brown]
  10. Only A Smile [Howard Barrett, John Holt, Tyrone Evans]
  11. Silver Words [Sixto Rodriguez]
  12. Yagga, Yagga (You'll Suffer) [Dennis Brown]


Produced by Winston 'Niney' Holness